猩々(しょうじょう)とはどんな妖怪?もののけ姫では森の賢者と呼ばれていた
あなたは「猩々(しょうじょう)」と呼ばれる妖怪をご存知でしょうか。猩々は中国に伝わる妖怪で、酒に深く関係した架空の動物です。
猩々はメジャーな妖怪ではありませんが、スタジオジブリの映画「もののけ姫」に登場し、メッセージ性の強いセリフを残していることで有名になっています。
そこで今回は、猩々についての解説と日本各地に伝わる伝説について紹介し、もののけ姫に出てくる猩々はどうなっているのか語っていきたいと思います。
猩々が出てくる映画はこちらで紹介しています。
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目次
妖怪である猩々(しょうじょう)とは?
猩々(しょうじょう)とは、中国の古典書物に記されている妖怪(架空の動物)のことを言います。猩々はオランウータンを和名にしたもので、そのほかでは
- チンパンジー➔黒猩々(くろしょうじょう)
- ゴリラ➔大猩々(おおしょうじょう)
と言ったりします。英語で言う場合は「heavy drinker」となり、「酒豪」という意味合いを持ちます。猩々は古代中国の経書である「礼記(らいき)」には、
「猩々は人間と喋ることは出来るが、所詮は動物でしかない」
といった内容が書かれており、人語を理解することができる妖怪であることが分かります。中国の地理書である「山海経(せんがいきょう)」に書かれている猩々の特徴としては、
- 耳が白い
- 歩く姿は人間にそっくり
- 豚に似た人の顔
などが記されています。
能の演目「猩々」
猩猩草(ショウジョウソウ)の
— ひろ (@hiroty_micchan) June 27, 2020
猩猩とはこちらの方です💗
猩猩は猿に似た伝説の動物てす💙
赤い顔してお酒が好きな妖精です。
能では祝賀の舞として登場します。
あれ〜左右の写真を見比べてみて下さい!
何だか猩猩草もご本家の猩猩も同じ立ち姿をしていますよ〜💜
面白いです💗 pic.twitter.com/gsyjad6ckZ
日本の古典芸能の一つである「能」では、演目として「猩猩」があります。真っ赤な能装束に身を包み、酒に浮かれながら舞い謡うといったものです。
能の演目である猩猩のあらすじをここで紹介したいと思います。
昔、潯陽江(じんようこう)と呼ばれる川の傍にある金山に、高風という名前の若者が住んでいました。高風はある日、
「市場で酒を売ればたくさんの富を得ることが出来るだろう」
というお告げのような夢を見ることになります。高風はそのお告げに従い市場でお酒を売り始めましたが、自分の店にやってくる客の中でいくら飲んでも全く酔わない客が居ました。
高風はその客に声をかけてみると、
「自分は海中に住んでいる猩々という者です」
と答えてその場から立ち去ります。興味を持った高風は月が出ている晩に、川のほとりで酒を用意して猩々を待つことにしました。
しばらくすると水中から猩々が現れ、高風は猩々と共に酒を酌み交わして舞い踊ります。高風の徳を褒めた猩々は、高風に泉のように尽きることが無いほどのお酒を与えて水中に帰っていきました。
猩々の妖怪伝説とは?
猩々は酒好きの妖怪で、能の演目「猩猩」のあらすじでもしっかり酒好きであることは表現されていました。
当然ながら猩々は日本各地でも伝説が残っており、ここではその猩々の伝説について語っていきたいと思います。
岩手県の猩々の伝説
最初に紹介するのは岩手県に伝わる伝説です。岩手県紫波郡では酒好きである猩々が海の中から現れるという噂を聞きつけ、ある方が猩々を見るために砂浜に酒樽を仕掛けました。
すると海の中から猩々が現れ、その酒樽に入っている酒を飲み干して酔っ払い、その勢いで酒樽の中に入ってしまいます。
中を覗いてみると、猩々が目を覚まして飛び起き、そのまま海の中へ逃げていったそうです。
山梨県の猩々の伝説
2つ目に紹介するのは山梨県に伝わる伝説です。山梨県の西地蔵岳で、猟師が約2メートルほどの猩々を見つけて発砲したそうです。
その際に猩々に弾は命中していましたが、猩々は特に痛がる様子はなく、傷口に草を詰めるだけで、そのあとは何事もなかったかのように平気な顔をしながら再び山の奥へと去っていったそうです。
和歌山県の猩々の伝説
3つ目に紹介するのは和歌山県に伝わる伝説です。和歌山県では笛に関係した伝説が残っています。
和歌山県牟婁郡である若者が天神崎の浜で笛を吹いていたところ、その笛の音色に惚れた雌の猩々が、その若者に自身の毛に針を刺した釣り道具をあげたそうです。
餌を付けなくてもたくさんの魚を釣り上げることができる道具となっており、その釣り場がその後に「猩々」という名前で呼ばれるようになったそうです。
富山県の猩々の伝説
4つ目に紹介するのは富山県に伝わる伝説です。富山県氷見市や射水市では船乗りが海に出ると、約1メートルほどの猩々に遭遇すると言われています。
そこで遭遇する猩々は複数匹で現れるそうで、猩々たちが舳先(へさき:船の前の部分のこと)に座り込むとされていて、船乗りはこの時に驚いて騒ぐと猩々たちが船をひっくり返してしまうため、黙ってそのまま船底を打ち伏すんだそうです。
山口県の猩々の伝説
5つ目に紹介するのは山口県に伝わる伝説です。山口県周防大島町の屋代島では、猩々は船幽霊として伝わっているそうです。
船を漕いでいると、船底から猩々が「樽をくれ」と言ってきて、樽を渡さないと祟りが起きると言われています。
しかし、仮に樽を渡したとしても船に水を入れて沈めてしまうとされていることから、渡す場合は樽の底を抜いた状態で海に投げ入れるそうです。
宮城県の猩々の伝説
最後に紹介するのは宮城県に伝わる伝説です。宮城県には「猩々ヶ池(しょうじょうがいけ)」と呼ばれる池があり、この池ではこんな伝説があります。
昔、多賀城市に大変賑わいを見せる酒屋があり、そこでは「こさじ」という女性が働いていました。ある日に猩々が酒屋にやってきて、出した酒を瞬く間に飲み干しました。
この際に猩々は、自分の血を盃に入れて残して去っていきました。これを見た酒屋の主が、次に猩々がやってきたらそこで殺してその血を奪うことを考えました。理由としては猩々の血は貴重で高値で取引されることを知っていたからです。
これを聞いた心優しいこさじは、猩々が殺されるのを防げないかと思い、猩々に主の企みを打ち明けます。すると猩々は、
「もし自分を殺せば津波が押し寄せてくるだろう。その際はこさじさんは末の松山に逃げ込みなさい」
と言いました。そして次に猩々がやってきた際に、主は酒をたくさんあげて酔い潰れさせ、その間に猩々を殺して血を奪い、その死体を近くの池に捨てます。
すると翌日に恐ろしいほどの雨量を誇る雨が降り、猩々の言っていた通り津波が押し寄せてきて、こさじは松山に逃げ込んで助かりました。酒屋はそのまま津波に飲み込まれて流されて無くなりました。
以後酒屋の主が殺した猩々を捨てたその池は「猩々ヶ池」と名付けられました。
同じ妖怪である猩々と狒々の違いとは?
妖怪の中で猩々と名前が似ているものとして、「狒々(ひひ)」と呼ばれる妖怪がいます。狒々は猩々と同じ猿系の妖怪で、その姿は普通の猿より大きいという特徴があります。
ただ、この狒々と呼ばれる妖怪は猩々とは違い、人間に対して危害を加えるタイプになります。
狒々は山の中に居ると言われており、山を歩く女性を襲うとされています。また、狒々は自身で風雲を起こし、その中で飛び回りながら人間を投げたり引き裂いたりすると言います。
猩々は酒をあげたり共に飲むことをすれば人間に対して幸をくれますが、狒々は性格が獰猛で人間に対して危害を加えますから、似てるようで全く違う性質をお互いに持っていることが分かりますね。
もののけ姫に出てくる妖怪としての猩々
もののけ姫の猩々たちの金言。
— GURU PHANTOM (@gurukaito) December 16, 2019
『ここは我らの森。人間よこしてさっさと行け』
『その人間よこせ』
『行け、行け俺たち人間食う
その人間食う』
『その人間食わせろ』
『人間食う、人間の力もらう
人間やっつける力ほしい。
だから食う』
『木植えた。みな人間抜く。森戻らない。人間殺したい』 pic.twitter.com/GA7ae56bjQ
猩々は妖怪としてそこまで有名ではありませんが、ジブリ映画「もののけ姫」に少しではあるものの登場します。もののけ姫での猩々は「森の賢者」という立場で登場し、作品を通してこの映画に込められている強いメッセージを残しています。
それは重傷を負ったアシタカをサンが助ける際に放った言葉で、
- 「ここは我らの森。人間よこしてさっさと行け」
- 「その人間よこせ」
- 「人間食う、人間の力もらう人間やっつける力ほしい。だから食う」
- 「木植えた。みな人間抜く。森戻らない。人間殺したい」
があります。これはタタラ場のエボシ御前に自分達が植えた木を抜かれて森が再生しないことに対して猩々が思い付いた手段で、それが人間を喰うことで人間の力を手に入れ、エボシ御前に対抗しようとしたものでした。
もともと森の賢者と言われていた猩々が、度重なるエボシ御前たちの侵略によって精神が崩壊してしまったということです。これは木を伐採して自然を無くしていく人間たちに対する強いメッセージであると言えるでしょう。
猩々という苗字がある
猩々は妖怪で伝承にしか登場しないように思われますが、実は日本には「猩々(しょうじょう)」という苗字が存在します。電話帳に掲載されている情報によれば、全国に「猩々」と付く苗字の人は約140名いるそうです。
判明している方々だけで、
- 北海道:50名
- 鹿児島県:40名
- 埼玉県:10名
- 千葉県:10名
- 大阪府:10名
はいらっしゃるとのこと。約140名しかいない苗字になるので、もし出会うことが出来たら運が良いと言えます。
猩々緋と言われる色がある
日本の伝統色『猩々緋』(しょうじょうひ)
— きたやまたてほ (@hotate18130619) November 7, 2021
緋色の中でも特に鮮やかな「猩々緋」。「猩々」とは猿に似た伝説上の生き物で、その血のような色が猩々緋です。
血のように鮮烈なヒガンバナの赤。何とも目に鮮やかな光景です。
#日本の伝統色 #色彩 #四季彩図鑑 #みらいパブリッシング #写真出版賞 pic.twitter.com/w8KaaiZsdn
猩々は苗字だけでなく、色も同じように猩々という名前が入ったものがあり、それが「猩々緋(しょうじょうひ)」です。猩々緋は緋色の中でも特に強い黄色が入った朱色を指します。
この色はもちろん妖怪である猩々の特徴から誕生した色になり、猩々から出る血の色がかなり赤いことから「猩々緋」という色名が付いたそうです。
この色は貴重な色とされており、戦国時代の武将たちはこの猩々緋を使って「羅紗(らしゃ:織り上げてから収縮させたあと更に毛羽立てたもの)」や「天鵞絨(ビロード:織物の表面を毛羽で覆ったもの)」を陣羽織(じんばおり:具足の上に着用する上衣)に仕立てさせて、戦場で意匠を競っていたんだとか。
まとめ:猩々はさまざまなところで名前が使われる妖怪
今回は妖怪である「猩々(しょうじょう)」について記事を書いてきました。猩々はオランウータンを和名にしたもので、酒に深く関係した妖怪となっており、古典芸能の一つである能の演目に「猩猩」というものがあって有名です。
猩々は日本各地の伝説を見ても共通しているのは酒で、いかに酒との関わりが強いか分かります。また猩々はジブリ映画「もののけ姫」にも登場し、今の人間と自然との関係を現わすような強いメッセージを残していました。
また猩々という名前は苗字の「猩々(しょうじょう)」や色の一種である「猩々緋(しょうじょうひ)」など、さまざまなところで使われている事が分かりました。
猩々は泉の如き酒の量を与えてくれると言われていますので、仮に存在しているならばぜひとも会ってみたいものですね。
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