バアルは神ではなく悪魔?ウガリット神話とユダヤ教によって陥れられたその姿とは?
あなたは『バアル』という神をご存じでしょうか。バアルは古代シリア・パレスティナにおいて嵐を操る神と言われており、ウガリット神話においてはカナン人が信仰する豊穣神として登場します。
しかし、ウガリット神話における豊穣の神とは裏腹に、バアルは『悪魔』としても描かれていて、どっちかというと現代ではバアルを悪魔とするイメージの方が強くなっています。
そこで今回は、ウガリット神話における神の立場のバアルと、悪魔の立場におけるバアルの姿の両方について解説していきたいと思います。また『なぜ豊穣の神であるはずのバアルが悪魔として描かれるようになったのか』についても最後に語っていきたいと思います。
目次
ウガリット神話におけるバアルとは?
バアルは、神々の父と呼ばれていた最高神イルの息子と言われており、別名としては『アダド』があります。バアルのウガリット神話における物語では、ある時に父であるイルが他の神々に対して召集するように命じ、そこで集会を開きました。
その際に海の神であるヤム・ナハルの使者から『ヤム・ナハルは神々の支配者でバアルは奴隷である』と宣告してきました。この宣告に対してバアルは激怒し、その使者を殺そうとしますが、アスタルトやアナトに止められます。
その後に工芸神であるコシャル・ハシスから受け取った武器を掲げ、ヤム・ナハルの元へ赴きます。そして死闘の末にヤムの頭を粉砕して勝利し、バアルは神々の王の称号を手に入れました。
ですが、神々の王になったものの、バアルは自身の神殿が無い事に気付きます。そしてコシャル・ハシスに宮殿の建設を任せて完成させ、その後に神殿で祝宴を行いました。
その際に自身の兄弟で死の神でもあるモートを祝宴に招こうと使者を送ったのですが、その祝宴ではモートの欲する人間の肉が出ない事が判明してモートがこれに対して激怒、バアルにこちらへ来るように言いました。
バアルはモートの元へ出向いた際に、モートに従うことを告げるのですが、この際に太陽神シャパシュから助言をもらっていて、身代わりの息子を作っていました。モートはバアルが身代わりになっている事に気付かずにバアルを飲み込みます。
そして、モートはアナトからバアルはどうしたのかと聞かれたため『自身がバアルを食い殺した』と発言。アナトは激怒してモートをその場で殺してモートの体を粉々にします。
結果的にバアルは復活し、モートも7年後に復活を遂げます。そこで再び両者は激突しますが、太陽神であるシャパシュの説得によって戦いは終わり、モートはバアルを神々の王として認めました。
これがウガリット神話におけるバアルですが、海の神ヤム・ナハルと死の神モートとの戦いにおいて、
- ヤム・ナハルとの戦い:バアルが荒々しい自然界の水を征する神である
- モートとの戦い:バアルが慈悲によって実りをもたらして命を与える神である
として、バアルを豊穣の神という形で象徴されていると神話では書かれています。
悪魔として描かれている魔神バアル
【バエル】
— 悪魔召喚bot (@akm_shoukan_bot) August 14, 2021
さまざまな姿で現れ、ヒキガエル、猫、または人間に似た姿、もしくはこれら全てを併せ持った姿を取る。しわがれた声で話し、人を不可視にしたり、知恵を与えたりする力を持つ。東方を支配する王。戦いに強いと言われることも。 pic.twitter.com/WtEe1wdpBJ
先ほどは豊穣の神として描かれているウガリット神話について紹介しましたが、ここでは悪魔として描かれている魔神・バアルについて解説します。名前としては『バエル』の方が正しいようですが、ここでは分かりやすくバアルとして語っていきます。
バアルはユダヤ教・キリスト教の旧約聖書においては大悪魔として登場し、『東の王』の異名で呼ばれています。ゴエティア(ラテン語で呪術・妖術を意味する)ではソロモン72柱の中で上級悪魔として君臨しており、66のデーモン軍団を率いている王とされています。
悪魔としてのバアルの姿はさまざまですが、一般的には
- 王冠を付けた人間
- ヒキガエル
- 猫
の3つの頭があり、体は蜘蛛のような外観になっていると言われており、喋る際は耳障りな声で話すとのこと。
魔神としてのバアルの能力は、
- 人を不可視(透明)にする
- 人に知恵を与える
の2つを持っていて、戦いにおいても強いと言われています。悪魔としてかなり強い力を持っている堕天使『ルシファー』の側近であるという話もあることからその力は強大であると言えるでしょう。
ちなみに、バアルと同じぐらいの知名度を誇る悪魔として『ベルゼブブ』がいますが、バアルはこのベルゼブブと同一視されているようで、ヘブライ語で「バアル・ゼブブ(蝿の王)」と呼ばれることもあるようです。
バアルはなぜ魔神として描かれるようになったのか
バアルはもともとウガリット神話において豊穣の神として描かれており、その力は神々の王になるほどであるとして伝わっている訳ですが、なぜ現代においてバアルは『悪魔』として強く描かれているのでしょうか。
一応悪魔として書かれているのはユダヤ教(ユダヤ教=キリスト教)が陥れたからだと言われていますね。
これに関しては、この世が『善と悪』という2つの二元論の上に成り立っているというのを作るために、絶対的な善である『神』に対し、神の敵として絶対的な悪である『悪魔』が生まれたと言われています。
そしてキリスト教にもこの思想が取り込まれて、『異教の神=悪魔』として烙印を押されてしまったとの事。
つまり、豊穣の神であるバアルを神とするならそれに対しての『悪魔』が必要であり、悪魔としてのバアルもユダヤ教側が描いたという事のようです。
まとめ:バアルは神であり悪魔でもある
今回は、神である『バアル』について記事を書いてきました。バアルはウガリット神話ではカナン人より豊穣の神として描かれているものになります。
しかし一方でバアルは悪魔としても旧約聖書には描かれていて、その力は強大なものであるとされています。悪魔としても描かれている理由は神の敵として悪魔の存在が必要であり、キリスト教が異端の神に対して悪魔と認定したからということでした。
いずれにしろ、バアルが神であろうが悪魔であろうが、バアルそのものの力は偉大且つ強大であることに変わりないでしょう。
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